ピーク・エンド・ラバーズ


つやまくん。散々呼んできた五音より二文字も短いのに、全然しっくりこない呼び名を、いま、自分の意思で使う。

廊下の奥。弾かれたように振り返った彼が、目を見開いた。


「……加夏ちゃん、何で」

「えーっ、なになに。岬、そのコ誰?」


一斉にこちらを向いた視線に、若干おののく。
茶化しているのは主に男子だけれど、女の子の方は、やはりどうにも私を品定めしているかのように見えて仕方なかった。

津山くんが私の方に歩み寄ってくる。その表情が、困り果てている。


「ど、どうしたの?」


帰りに会う以外、滅多に話さない。連絡はスマホで事足りる。
今までずっとそうだったのだから、突然のイレギュラーに動揺しているのだろう。


「なー、カノジョ? 噂の、めっちゃ可愛いっていう?」

「噂っつーか岬が言ってるだけだろそれー、ノロケおつ」


津山くんの背後から、そんな冷やかしが聞こえてきた。何だかとんでもないワードが含まれていた気がするのだけど。
恐る恐る彼の顔を窺えば、「お前ら、うるさい」と苦笑気味に友人をいなす姿があった。


「え、なに? カノジョじゃないん?」

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