ピーク・エンド・ラバーズ
そう問いかけられた津山くんが、頭を掻く。
「あー……その……」
なに、それ。何で困ってるの。どうして頷かないの。
女の子の一人と目が合って、相手の瞳に安堵の色が宿ったのを、私は見逃さなかった。
――もう、ほんっとうに馬鹿だ。津山くんの馬鹿。
だらりと垂れ下がっている彼の腕。それをぎゅう、と引っ張って、自分の傍に引き寄せる。
「この人、彼氏なんで!」
全体に、というよりも、とある一名に向けての宣戦布告みたいになったけれど。勢いに任せて断言すれば、その場が静まり返った。
「…………え?」
頭上から気の抜けた声が落ちてくる。
捕まえた腕を離さずに、そのまま踵を返して廊下を走った。
「ま――待って、加夏ちゃん! どうしたの急に、」
ばたばたと騒がしい足音を立てて、ひたすらに遠ざかっていた。一度階段をあがって、講義があるとき以外はあまり人の行き来がない二階。ようやくそこで立ち止まる。
腕を離してから、私は面と向かって叫んだ。
「津山くんの馬鹿!」
「えっ」
怒鳴られるのは想定外だったらしい。びくりと肩を震わせ、彼が「ごめん」と言いかけ――やめた。
「な、何で? 俺、何かした……?」