ピーク・エンド・ラバーズ


と、教室のドアから落ち着き払った挨拶が聞こえた。

振り返りたくない。いま振り返ったら負ける。
私の葛藤をよそに、裁判に参加していた畑中くんが声を上げた。


「おい相良! お前からも言ってくれって。別にまじで告ったわけじゃないじゃんか、しかもちゃんと謝ったし」

「……は、」

「西本は分かってんのに、本田(ほんだ)が分かんないとか、ないわー。てかそんなまじな感じ出してないじゃん、冗談って分かるっしょ?」


何それ、最低、と再び抗議の声が飛び交う。

感情が迷子だった。唇をぎゅっと噛んでいたら、不意に肩をたたかれる。


「西本」


振り返ってしまった。
相良くんとまともに目が合って、そうしたら急に涙腺が緩む。ぼやけた視界の中で、相良くんが痛々しげに眉尻を下げていた。


「ごめん。俺、」

「……嘘つき」


取り繕うみたいに、今更悲しそうな顔をしなくたっていい。したたかだなって感想しか浮かばないから。
へえ、そう。相良くんってこういう時、あくまでも自分を守ろうとするんだね。開き直ってる三浦くんと畑中くんより、ずっとずっとタチが悪いよ。

朝のホームルームが始まるまで、女子トイレにこもって必死に気持ちを整理した。
それから男子と女子の間には明確な溝ができて、結局完全な和解はないまま、私たちは進級した。

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