ピーク・エンド・ラバーズ
あの時と同じように。余裕があるふりをして、私は緩慢に振り返る。
ただ同じじゃないのは、冷めきった心臓と落ち着いた鼓動だ。
「いま、帰り?」
「そうだけど」
淡々と返して、下り損ねていた階段を二つ進む。
待って、と懇願するように零した相良くんも、私に倣って階段を下りてきた。
「今日も、一緒には帰れない?」
「うん」
「じゃあ、次のシフト被った時とか」
どうかな、と。緊張した面持ちで問うてくる彼に、私は小さく息を吐いてから述べた。
「相良くんと一緒に帰ることは、ないよ」
「……西本が俺のこと嫌いっていうのは、分かってるけど……一回でいいから、話すチャンスくれない?」
なかなか引き下がらない相良くんが、一歩詰めてくる。
私は首を振って、下から真っ直ぐ彼の目を射抜いた。
「相良くん。私、こないだも言ったけど、もう相良くんと話すことなんて何もないよ。この意味、分かる?」
僅かに眉根を寄せた相手に、きっぱりと告げる。
「あなたとは話したくもない。――そう言ってるんだけど、ちゃんと伝わってるのかな」
「……西本」
「もう別に気にしなくていいよ、五年も前のこと。私も忘れるから、相良くんも忘れて」