ピーク・エンド・ラバーズ
自分のおかげで、とか、そんなことは思わないにしろ、魔が差して正解だった。
あの時教室に踏み入らなかったら、津山くんに声を掛けなかったら。きっと彼は今頃、違う大学に行っていたんじゃないかと思う。
「……やっぱ、優しいよね」
「は?」
「俺、加夏ちゃんがいなかったら、ほんとに腐ってたわ。まじで俺の人生の転機に立ち会いすぎじゃん?」
「……たまたまでしょ」
「はは、そういうことにしとく」
せっかくだから、と、たい焼きと肉まんを一つずつ買うことにした。何がせっかくなのかさっぱり分からないけれど、津山くんと半分ずつ分け合って、甘いのとしょっぱいのを両方食べられたのは、結構お得だったな、と思う。
路地裏を進みながら、途中で気になったお店に入ってみたり、津山くんが野良猫に威嚇されていてちょっと笑ってしまったり。
ゆっくりと流れる時間が、最近ささくれ立っていた心を少しずつ癒していく。
うん、大丈夫。私はちゃんとこの人を好きになれる。好きになっている。もう、理不尽に傷ついて臆病だった自分はいない。
「加夏ちゃん」
こじんまりとした書店を出たところで、津山くんが私を呼んだ。
「貸して。持つよ」