ピーク・エンド・ラバーズ
たったいま買った、数冊の本が入った袋。私が持っているそれを奪おうとした彼に、首を振る。
「いいよ。大丈夫」
「でも、」
「いいって」
津山くんの片手は既に荷物で埋まっている。私のものを持つと、両手が塞がってしまうから。
「……こうしたら、手繋げるでしょ」
空いた片手同士、引き合わせるように。
彼の手に触れた途端、相手の足が止まった。
「えー…………ちょ、待って……」
はあ、と盛大なため息をついて、津山くんが俯く。それでも手は力強く握られたままで、私も立ち止まるほかなかった。
「ずっる……それは反則」
「な、何が」
「俺よりかっこいいことすんのやめて。心臓出るかと思った、危な……」
かっこいい、はちょっとよく分からないけれど。
反則なわけがない。正攻法じゃん、と抗議の意味も込めて、彼の手を握り返す。
「待って、ほんとに。どうしたの最近」
「別にどうもしない」
もっと手を繋ぎたいって言ったのは、津山くんだ。欲しがったのはそっちだ。
私はただ、自分の枷みたいなものを取っ払っただけ。想った分を、言葉と行動に示そうと思っただけ。
ちゃんと真っ直ぐに、人の気持ちを信じられる恋をしたいだけで――。
「……加夏ちゃん、さ。やっぱりあの人と何かあったんじゃないの?」