ピーク・エンド・ラバーズ


彼の名前を呼んだ。きっと、今までで一番清々しい声が出た。
どこか怯えたように揺れた瞳が、私を映して歪む。


「私、行ってくる。相良くんに会って、話してくる」

「……何で、」

「ちゃんとしたいから。津山くんの言う通り、もう隠さない」


立ち上がった私に、彼は一歩、二歩と近付いてきた。その勢いで私の両肩を掴み、双眼を見開く。


「何で? 何で行くの? 会わなきゃだめなの?」

「うん。会って話したいの」

「やだ……やだよ。そんなに会いたいの? やっぱり好きなんじゃないの?」

「違うよ」


彼の手の上から、自分の手を重ねる。宥めるように「相良くんのことは好きじゃない」と伝えたけれど、津山くんは必死に首を振るだけだった。


「やだよ……俺、加夏ちゃんが他の男と会うの、黙って見てるとかできない!」

「津山くん、」

「行かないで。ここにいてよ……」


悲しい色を宿した瞳が、切々と訴えかけてくる。
彼が不安になるのも、躍起になるのも、痛いほどよく分かった。それが全部自分のせいだということも、痛感していた。


「ごめん。……ごめんね」

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