ピーク・エンド・ラバーズ


津山くんはいつも真っ直ぐに向き合ってくれていたのに、それを勝手に屈折させていたのは私の方。
ずるくて、卑怯で、臆病で。分かっているくせに見ないふりもして。

随分と遠回りをしたけれど、私はやっと、自分から手を伸ばして君を欲しいと思うよ。


「加夏ちゃん、」


いっそ弱々しい叫びを受け流して、彼の手を外す。その横を通り過ぎて、玄関に向かった。
――と、


「嫌だ!!」


腹の底から絞り出したような爆発に、心臓が大きく跳ねた。純粋な驚きと共に顔だけ振り向いた刹那、既に津山くんはこちらへ向かってきていて、荒々しく床に押し倒される。


「いっ、」


フローリングに背中を打ちつけ、顔をしかめる。しかしその痛みに気を払う暇もない。


「――俺のことだけ見ててよ!」


視界いっぱいに広がった彼の姿が、鮮烈に胸を打つ。眉根を寄せ、歯を食い縛り、彼は今にも壊れてしまいそうだった。


「俺以外の男と話さないで! 俺の、俺のことだけ、……俺のこと、好きって言ってよ……」


頬に生暖かい雫が落ちてきて、どうしようもなく苦しくなる。ゆらゆらと水を溜めた彼の目から、幾筋も涙が流れた。


「……津山くん」


その水滴を拭おうと、手を伸ばした矢先。


「どうしてもあいつに会いに行くって言うなら、加夏ちゃんをここに閉じ込める」

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