ピーク・エンド・ラバーズ
外の地面は色濃く濡れ、頭上には分厚い雲が広がっている。雨足は強くなる一方だ。
カフェを出てから足早に歩いていたけれど、とうとう駆け足で駅へ向かわざるを得なくなった。
もう少しで駅に着くといったところで、見覚えのある人影が目に入る。住所と現在地を照らし合わせているのか、スマホ片手に周囲を見渡していた。
「岬――――!」
私が叫んだ瞬間、その場にいた人たちが一斉にこちらを見て、ぎょっとした顔をする。
ぬかるんだ地面を蹴って走り出す。全速力で、真っ直ぐに。
『西本さん、好き!』
『ほんとに、めちゃくちゃ好きだから! ごめん、もっかいちゃんと顔見て言いたいから! お願い!』
あの日、彼は人目を憚らず私を走って追いかけてきた。みっともなく泣いて、泣き腫らして、「好き」のたった二文字を伝えるために、恥を捨てて。
『私はね。多分なんだけど、津山くんのこと好きだよ』
あの日、私は彼にそんな中途半端な気持ちしかあげられなかった。彼みたいに全身全霊で人を好きになったり愛したりすることは、自分にはできないと思っていた。
今更かな。何年、何か月かかったのって話なんだけれど、私は今やっと、「なりふり構わず」をやれているみたいだよ。
「えっ、加夏ちゃん――うわっ」