ピーク・エンド・ラバーズ
健気で謙虚で、一途な人。私は彼に、これから何を返せるだろう。
「だめ」
「え?」
「岬しか好きじゃないってちゃんと伝えたいから、帰ったら話すの。だから聞いて」
途端、彼の顔が真っ赤に染まった。その目が少し潤んでいるのは、雨のせいではないと思う。
「……うん、聞くよ。全部聞く。教えて」
私の肩に顔を埋めながら、岬は声を震わせた。そこに、雨が降る。
きっと、彼がずっとずっと欲しかった言葉だ。私からの「好き」を、おんなじ「好き」を、岬は切望していた。
「岬」
「うん?」
嬉しくて仕方がない、といったような声色が、甘く体を蝕む。
程よく高い位置にある彼の肩に両手をかけて、背伸びをして。耳元でそっと打ち明けた。
「好き」
「え――」
「岬が、好き」
こういう時、自分は意外と照れずに言えるらしい。開き直ったからだろうか。それとも、彼の前で恥はかききったからだろうか。
「…………もー……何でここでそんなこと言うの」
半ば苦情のように嘆いた彼は、「我慢すんのしんどいじゃん」と口を尖らせる。そして私の腰を引き寄せると、お返しとばかりに、そっと囁いた。
「好き。加夏ちゃんが好き。……絶対、誰よりも俺が、大好き」