ピーク・エンド・ラバーズ


彼の耳はやっぱり朱色で、何度言ってもいつになっても、彼にとって「好き」の一言は大切なのだなと思う。

涙なのか雨なのか、はたまた両方か。岬の顔がぐしゃぐしゃだったから、それを指摘すると、「加夏ちゃんもだよ」と言われてしまった。そこでようやく体を離して、傘を拾う。

彼が差し出してくる傘を受け取ってから、それでも私はそれを開かなかった。


「わざわざ買わなくても、一本で良かったのに」

「えっ」


彼の傘に入る。隣から岬の顔を見上げて、小首を傾げてみせた。
うん、相合傘も、悪くない。前に人がやっているのを見た時は、うんざりしていたけれど。自分事となると、恥も外聞もどうでも良くなってしまうものなんだ。


「加夏ちゃん」

「ん?」

「……手は、繋いでも、いいですか」

「いいですけど、傘持ちながら、どうやって繋ぐんですか」

「気持ちで」

「気持ちで」


思わず最後はオウム返ししてしまった。どうやら、心の中の手を繋ぐらしい。
可笑しくて吹き出したら、咎めるように彼が肩をこつん、とぶつけてくる。こつん、こつん。何度か繰り返して、駅に着いたら傘を畳んで、今度は本物の手同士を繋ぐ。

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