ピーク・エンド・ラバーズ
そうして彼の家まで辿り着いてから、岬がふと思い出したようにこちらを振り返った。
「おかえり」
『いってらっしゃい』
数時間前までここにいた私たちとは似ても似つかないくらい、いや――もしかしたら、さほど変わっていないかもしれない。
でも、こんなことを何度も積み重ねながら、ただのすれ違いや喧嘩の枠におさめておくにはどうしようもないことを経験しながら、「ずっと」をつくっていく。
不器用で歪で、苦くて愛しい恋の形。それが私たちの、幸福論だ。
「ただいま」
ここにいるのは私と君。それなのに、彼は今日も恥ずかしそうに、内緒話をするように愛を囁く。
私がその四文字を返すと、ずるくて可愛くて時折ウブな恋人は、眩しいくらいの笑みを浮かべて、玄関の鍵を開けた。
Fin.