ピーク・エンド・ラバーズ
中へ促され、どーも、と芽依は躊躇なく足を踏み入れる。既にケースケくんがいるようで、二人の話し声があっという間に充満した。
玄関で中途半端に立ち止まってしまった私はといえば、ドアを閉めて靴を脱いだ岬と目が合う。
「あ、……お、お邪魔します」
「うん」
妙な緊張感から、畏まって変な挨拶をしてしまった。彼も彼で気まずそうだし、本当に勘弁して欲しい。
「か、加夏ちゃん」
歩き始めた刹那、袖を引かれて振り返る。
じっとこちらを見つめた後すぐに逸らして、岬は小さい声で告げた。
「可愛い……」
「な、」
「ほんと、まじでびっくりした。名倉がコスプレするって言ってたけど、冗談だと思ってたし……」
可愛いって言ってるあんたの顔が一番可愛いんだけど、どういうことだ。
私の方まで思考回路がおかしくなっている。目の前の彼の耳は真っ赤で、自分の顔も恐らく負けないくらい真っ赤だ。
「コスプレじゃない……制服、交換しただけで、」
「うん」
恥ずかしさを誤魔化そうと喋り始めたのに、全く頭が働かない。
ブレザー姿ではない彼は、やけに幼く見えた。いつもより可愛らしいから困る。
「加夏ー、チョコってそっちの袋に入ってたっけー?」