ピーク・エンド・ラバーズ
罵られて嬉しそうにしないで欲しい。それともなんだ、そういう趣味でもあったんだろうか。
「分かんない? ばかって加夏ちゃんが言うのは、照れてる時だよ」
かっ、と頬が火照る。耐えきれなくて、顔を両手で覆った時だった。
「ごめーん、そこに私のスマホあるー? 忘れてったみたいでさー」
数分前に出て行ったはずの声が響き渡る。ばたん、とドアが開閉して、足音が二人分。
たちまち別の意味の恐怖が襲った。恐る恐る手をどけた先――
「……あ」
ぴたりとその場に立ち止まり、芽依とケースケくんが固まる。
「あ、……あ~~~~! こんなところにあったわ、いや良かった~! じゃあ行ってくるか~~~~」
テーブルの上のスマホを光の速さで回収し、芽依がそそくさと玄関に向かう。未だ硬直状態のケースケくんを引き摺り、ドアは再びばたん、と閉じた。
その閉じたドアを見つめること、十数秒。
「……岬」
「ハイ」
「ちょっとそこに正座。歯食いしばって」
「待って待って加夏ちゃんも満更じゃなさそうだったよね!?」
「うるさいばかッ!」
「痛ぁい!」
これが今年の秋、本当にあった怖い話である。