ピーク・エンド・ラバーズ



「玄くん、ここにいていいの?」


テーブルに戻ると、羊の向かいには狼谷くんが座っていた。さっきまでは同じクラスだった女の子がいたはずだけれど、いつの間にか違うテーブルに移動していたようだ。


「うん、もう別にいいかな。それより、羊ちゃんが他の奴にちょっかい出されてないか気が気じゃなくて」

「そ、そんなのないよ……! 玄くんの方こそ、ずっと女の子に見られてたよ」

「やきもち妬いてくれるの?」

「だ、だって」

「羊ちゃんしか好きじゃないって毎日言ってるのに、悪い子だね」


……なんだ、これは。
今しがた繰り広げられたバカップルの会話に、思わず眉をひそめる。

卒業してからも羊が狼谷くんと付き合い続けているのはもちろん知っていたし、たまに電話で話す時も彼の話題がよく出てくるから、当然といえば当然だ。
ただ、しばらくこの空気を摂取していなかったせいで免疫が下がっている。とんでもない糖度に眩暈がしそうだ。狼谷くんはいつもこんな台詞を吐いているのだろうか。

灯に目配せをするも、やれやれ、といった様子で肩をすくめるだけだった。


「ちょっと加夏、遅いー。もうこの二人についていけなくて死にそうだったよ」

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