ピーク・エンド・ラバーズ
それに関しては、ごめんの一言がすぐに滑り出た。私が灯の立場だったら同じように文句を垂れていただろう。いや、それどころじゃ済まなかったかもしれない。
お詫びに――どうして私が詫びなければいけないのかも疑問だけれど――杏仁豆腐を贈呈すると、灯は水を得た魚のごとく元気になった。現金なところは相変わらずである。
「さっき話してたのって北川? 口説かれてなかった?」
「いや……言い方どうにかなんないの。灯も北川くん知ってるんだ、クラス同じになったことあるっけ?」
「三年の時に同じだったんだよね」
ふーん、と相槌を打って、烏龍茶を一口含む。
「一口食べる?」
「え、いいの?」
「加夏が持ってきたやつじゃん。一口っていうか、普通に半分ずつにしよ」
取りに行くのも面倒なので、灯と杏仁豆腐を分けることにする。
美味しいけど、個人的にはコンビニのやつの方が好きかも。私の呟きに、分かる、と隣から肯定が返ってきた。
「加夏ちゃん」
心臓がどきりと跳ねる。突然の呼び掛けに視線を上げ――私を見下ろす彼の姿に、違和感を覚えた。
「あ、津山じゃん! なんだぁ、加夏も羊のこと言えないじゃんね。私、移動した方がいい?」