ピーク・エンド・ラバーズ
揶揄うような灯の口調に、対抗する余裕がない。
岬の顔はやけに赤くて、彼の着ている白ニットがそれを際立たせている。
おかしい。何かが変だ。だって、岬は普段こんなに虚ろな目をしていないはず。
「ねえ、」
口を開いたその時だった。
岬が距離を詰めてきたと思えば、そのまま抱きついてくる。びっくりして一瞬固まった後、即座に我に返った。
「ちょっと……! なにしてんの!?」
信じられない。大勢の人の前で一体、何をしでかすんだこいつは。
巻きついた腕を引っぺがそうとするも、なかなか外れない。背中を叩いても、離れる気配はなかった。
「ねえ、ちょっと、岬! ばか! 聞いてんの!? なんなの!?」
「加夏ちゃん……」
もう、何こいつ! 意味分かんない!
めげずに岬の体をぽかすか殴っていると、彼がゆっくりと顔を上げる。首まで真っ赤な彼を見て、もしかして、と一つの考えが頭をよぎった。
「岬。お酒飲んだ?」
「一口だけ……」
「はあ!? ばかじゃないの!?」
今までのことを全部綺麗さっぱり忘れたのだろうか、この馬鹿男は。
私と揉めた原因もアルコール。もうしないと約束した事項に含まれていたのもアルコール。それなのに、この期に及んで――
「ごめん、灯。この人連れて帰るわ。お金預けていい?」
「え、ああ、うん。それはいいけど……」