ピーク・エンド・ラバーズ
どうせあと三十分も経たないうちにお開きだ。話したい人とも大体話せたし、この後はみんなそれぞれ帰路につくだけだろう。
財布の中身を確認していたら、す、と目の前にお札が差し出される。顔を上げると、狼谷くんだった。
驚いて言葉も出ない私に、彼は淡々と告げる。
「これ、岬の分」
「え……」
「帰りにタクシー拾うなら、多めに持っといた方がいい」
いくら多めに持ってきたとはいえ、自分と岬の分を払うと確かに財布の中身は心もとない。彼の気遣いは非常に有難かった。
だけれど、狼谷くんと会う機会なんて滅多にないし、このお金はどうやって返せばいいのだろう。
「あ、ありがとう。……ええと、岬にちゃんと返させるから。ごめん」
どきまぎしながらもきちんとお礼を伝えれば、狼谷くんが頷く。
羊の彼氏は、やっぱり分かりにくいけれど優しい人だ。いや、私が羊の親友だからかもしれないし、害がないと分かりきっているからかもしれない。まあともかく。
「じゃあ、先に帰るね。久しぶりに話せて良かった」
言いつつ岬の背中に腕を回す。
また連絡するね、と羊。気を付けてね、と灯。
岬は完全に酔っていたけれど、自力で歩いてくれるようだった。支えながら帰るのはかなりの重労働だから、そこは助かった。
「あっ、岬~! お前、大丈夫か?」