ピーク・エンド・ラバーズ



結局タクシーを拾うことにした。
車内で狼谷くんに「ありがとう。助かりました」と簡素にメッセージを送信すれば、「どういたしまして」とこれまた簡素な返信がくる。

羊と灯からのメッセージにも返信して、アプリを閉じる直前に「北川くん」の名前が目に入った。ケースケくんとはきちんと話せただろうか。

岬のアパートに着き、階段にひやひやしながらも、何とか部屋まで辿りつく。


「お邪魔します。とりあえず水飲みなよ? いま持ってくるから座ってて」


道中も黙りこくっていたけれど、彼は部屋に入っても口をきかない。私の言葉が一応耳に入ってはいるらしく、ベッドに腰を下ろしていた。

水を汲んで彼のもとに戻ると、宙を見つめたまま固まっている。


「大丈夫? 水飲める?」


コップを差し出しても、岬はうんともすんとも言わない。
ひとまずテーブルにコップを置いて、彼のマフラーに手をかける。コートもそのまま脱がせてあげよう、とボタンを外していた時だった。


「……加夏ちゃん」


あ、喋った。そんな感想が浮かんだのは許してほしい。
ぼんやりと私の顔を見つめる岬に、首を傾げる。


「うん? どうしたの」

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