ピーク・エンド・ラバーズ
なんだか、やっぱり変だ。酔いが回っている、というだけでは形容しがたい何かが、彼の瞳に宿っている。
「岬?」
どこか翳りのある表情に少し不安になって、その目を覗き込むようにしゃがんだ。
「――さっき話してたのって、誰?」
ドスの利いた声。私を見下ろす視線は、物々しい男の人のそれだった。
思わず体が強張って、喉が締まる。
「言えないの?」
「……え、な……岬?」
彼がアルコールを摂取していて良かったかもしれない。頬に赤みが刺していなければ、目の前の無表情があまりにも恐ろしくて直視できなかっただろう。
腕を掴まれ、びくりと大袈裟なくらい肩を跳ねさせてしまった。
そんな私に構わず、岬はやや強引に腰を引き寄せ、ベッドに私を座らせた。ぎゅう、と後ろからきつく抱き締められる。
「加夏ちゃん、答えて。さっきの奴、誰?」
「さっきって……?」
「忘れたんだ? あんなに楽しそうに話してたのに」
ただならぬ彼の追及に、必死に頭を働かせる。
あ、と漏れた自分の声は随分と頼りなさげだった。
「北川くん! あの、一年生の時に同じクラスで……ケースケくんと知り合いだったの、だから」
「本当に?」