ピーク・エンド・ラバーズ
それはまあ、確かに。でも、すぐに削除するのは何となく感じが悪い。
戸惑う私に、岬はますます拘束を強めてくる。お腹に彼の腕が食い込んで、苦しいくらいだ。
「わ、分かったって。後でちゃんと消しとく」
「だめ。いま消して。俺の前で」
毅然と言い放った岬が、スマホを持つ私の手を、そのまま握った。
その手が、背中越しの視線が、この場の空気を全て制している。
トーク画面の右上をタップする指が、僅かに震えた。ブロック、の四文字に、罪悪感が芽生える。
完全に「北川くん」の痕跡が消え、岬をちらりと見やった。これでいい? と聞くより先に、彼が口を開く。
「玄のも。消して」
「え……?」
「さっき連絡してたでしょ。俺があいつとやり取りできるんだから、加夏ちゃんがあいつと連絡取る必要ないよね」
狼谷くんとメッセージのやり取りをした履歴を、目敏く見つけたらしい。
さすがにそこまで言われるのは驚いた――というか、初めてだ。
「え、いや、岬の分のお金払ってくれたんだよ。それのお礼言っただけだし……ていうか、ちゃんと狼谷くんにお金返しなよ」
「うん、分かった。でも、連絡先は消して」