ピーク・エンド・ラバーズ


悪酔いしすぎだな、と少々げんなりしてしまった。
普段から私が男の人と話すだけであからさまに不機嫌な顔をする節のある彼だけれど、どちらかというと拗ねているような感じに近い。ここまで明確に口出しをしてくることはないから、可愛いかも、で済んでいた。


「狼谷くんには羊がいるんだよ? どうひっくり返っても私に興味持つわけないんだよ? 分かるでしょ」

「俺にとっては加夏ちゃんが一番可愛いし、俺の知らないとこで他の男と連絡取ってるかもって考えちゃう方がやだ」


あんたそれ、いまここで言ってるから許すけど、他の人の前で言わないでよ。羊と狼谷くんのこと言えないくらいバカップルみたいじゃん。

時折こんなふうに直球でピンク色を投げつけてくるのが、彼の十八番である。そして彼の攻撃に、私はいつも防ぎ方を見いだせない。


「ね、消して」


駄々をこねるように耳元で囁かれた言葉は、圧倒的に甘い響きをはらんでいた。

男の連絡先を消せだなんて、普通は束縛がひどいとか、そういうカテゴリーに分類されるのだろうか。狼谷くんの羊への振る舞いを見ていて、愛が重いなと感じることは常々あったけれど、岬は客観的に見るとどうなんだろう。

でも別に、脅されるわけでもなければ危害を加えられるわけでもない。
あくまで岬のお願いを、私が了承しているだけ。それだけの話だ。

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