ピーク・エンド・ラバーズ


優しい。その単語は、耳にタコができるほど聞いた。俺のことを表現する時、大抵の人はそう言うから。

でもいま彼女は、優しいから好き、ではなく、優しいから自分のことを甘やかしてくれる、と言った。以前なら嬉しかったはずの言葉が、もう響かない。
だってカンナ先輩の目は、退屈そうに伏せられている。


「……そうですか」


俺はこんなに悲しいのに、目の前の彼女はなんてことないような口調で話す。それが余計に心臓を抉った。
彼女にとって俺との時間は既に終わっていて、別れることは決定事項なのだ。


「なんだろ。優しいんだけど、岬って、必死だよね。なんかいつも余裕なさそう」


ケーキにフォークを差し入れるように、いとも容易く。彼女は俺の心にヒビを作る。それはあっという間に割れていって、生温い雫が頬を伝った。


「え――泣いてるの?」


困惑と動揺。それから、沈静。
恐らく引かれている。彼女の声色から読み取れた感情は、完全に冷え切ったものだった。


「ごめんねって。別に泣かせようと思って言ったわけじゃなくてさ……ていうか、もともとは岬が聞いたんだよ」

「はい、……大丈夫、です」


何が大丈夫なんだ。俺は何で泣いてるんだ。どうして、こんなに。


「今までありがとね、ばいばい」


俯く俺の頭上で、そんな声が聞こえた。

< 268 / 275 >

この作品をシェア

pagetop