ピーク・エンド・ラバーズ
「必死になってる津山くんは、嫌いじゃないよ」
俺はずっと、この言葉を忘れない。
体だけ堕落的に重ねて全てを曖昧にして、経験を積んだつもりでいた。俺の言葉で相手が笑ってくれるなら、それでいいじゃん、と本気で思っていた。
西本さんは俺の軽薄さを、さも当然のように蔑んだ。彼女が正しい。だけれど、そうされて初めて、俺は自分のことを丁寧に振り返って噛み締めることができたような気がする。
『岬って、必死だよね。なんかいつも余裕なさそう』
適当に、それでいて意図的に道を誤ったのに。そうすれば、違う自分になれると思ったのに。
西本さんが俺の背中を叩くんだ。なに馬鹿なことしてるのって、何度も、何度も。
容赦なく怒って絶対に許してくれないくせに、俺の一番痛くて脆いところにはとびきり優しく触れる。だからいつも、泣きたくなる。彼女の前では、泣いてばかりだ。
でも、西本さんは一度も俺のことを馬鹿にしなかった。空気を和ませるために馬鹿にしているフリはしても、本気で見下したことはただの一度もない。
くすくすと笑ったり、困り果てたり、怒ったり。真剣に全ての感情をぶつけてくれた。
彼女に縋り付いて泣いた時も、一切の迷いなく、汚された服より俺の涙を先に拭ってくれたこと。見られるのはきっと嫌なのに、人前で手を繋いでくれたこと。
さりげなく落とされた優しさに、俺はもうずっと、甘え続けている。