ピーク・エンド・ラバーズ
寝室に顔を出した加夏が、そう言って俺たちの方に歩み寄ってきた。
「パパは?」
「パパは今日お休みしなきゃいけないの。頭痛いんだって」
「痛いの痛いの飛んでけ、する?」
「ふふ。うん、してあげて」
真剣な表情で問う息子と、優しく笑う妻が愛おしい。
痛いの痛いの飛んでけ。二人で声を揃えて唱えてくれたけれど、痛みは正直変わらなかった。
「パパ、大丈夫?」
「お、なんかすっきりしたかも! ありがとー」
「じゃあ、公園行ける?」
「えッ」
子供の前で迂闊に嘘をつくもんじゃない。
ぎくりと固まった俺に、加夏がすかさずフォローを入れる。
「でも、すぐに動いたらまた痛くなっちゃうかもしれないから、今日は寝てた方がいいよ。ね、パパ」
「う、うん……ごめんなあ那月、来週は絶対行くから」
約束、と小指を差し出す。那月の小さい指が絡んで、指切りげんまんの歌が寝室に響いた。
「よし。じゃあ行こっか」
加夏が那月の背中を軽く押す。部屋を出る直前で、彼女が振り返った。
「……パパはね、『絶対に』約束守ってくれる人だから、大丈夫だよ」
その目元が懐かしそうに緩む。
いってきます、の二重奏に、いってらっしゃい、と返して、俺はもう一度穏やかな眠りについた。