ピーク・エンド・ラバーズ



秋から初冬になり、朝晩はぐっと冷え込むようになった。
その日は久しぶりに羊と放課後出掛けるということで話がまとまっていて、柄にもなく浮かれていた。

割り当たっていた理科室掃除を終えて、クラスメートと解散する。そこまでは、普段と何ら変わりないはずだった。


「西本さん」


呼び掛けに振り返れば、学級委員の坂井(さかい)くんが近付いてくる。
真面目で温厚なクラスメート、という以外に特に目立った印象はない彼だけれど、なぜだか今は生き生きとしていた。いいことでもあったんだろうか。

首を傾げて続く言葉を待っていたら、彼が突然顔を寄せてきたので驚いた。
しかし坂井くんは視線を左右に振り、周囲を確かめるような仕草を見せる。どうやら内緒話があるらしい。


「白さんが、用事できたから先に帰っててって言ってた。なんか、玄関で西本さんのこと待ってる人いるらしいよ?」

「え?」


あまりにも急すぎる事態に、ますます謎が深まる。
羊が坂井くんにわざわざ伝言を頼むのもよく分からないし、大体、用事って何だろう。せっかく約束したのに。
というかそもそも、私を待ってる人とは一体。羊以外と約束した覚えはない。

仕方なく玄関まで下ったところで――いた。物凄く見覚えのあるシルエットが。


「もう、羊の馬鹿!」

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