ピーク・エンド・ラバーズ


思わずそう独り言ちて、踵を返す。と、私の存在に気が付いた彼が慌てた様子で腕を掴んできた。


「えっ、ちょ、ちょっと待って。何で逃げんの? 酷くない? 俺待ってたんだけど」


津山くんが言い募り、必死に私を引き留めてくる。


「知らない! どうせ羊が変な気利かせたんでしょ!」


そうでなきゃ彼がここにいるわけがない。他人どころか自分の恋愛にも鈍そうなのに、よくもまあこんなセッティングをしてくれたものだ。

やっぱり、あからさまに津山くんを突っぱねすぎたのが逆効果だったんだろうか。
彼がなぜか毎朝バス停で私を待ち構えるようになってから、どうにも上手く話せない。意識している、というのは認めなければならない事実だ。

でもそれは彼のことが好きだからとかではなくて、むしろ逆で。嫌いになってしまいたいから、距離を取っている。


「え? 白さん? なに、どういうこと?」


私の腕を捕まえたまま、津山くんが首を捻る。


「……今日は羊と出掛ける予定だったの。でもさっき急に先に帰ってって言われて……」

「あー……そういうこと」


彼は数秒宙を仰ぎ、苦笑した。実はさ、と気まずそうに話し出す。


「授業終わった後、坂井に『西本さんが玄関で待ってて欲しいって言ってた』的なこと、言われて……」

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