ピーク・エンド・ラバーズ
私は断じてそんなことは言ってない。というか、言うわけがない。
羊も羊だけれど、坂井くんも坂井くんだ。二人とも悪ノリが過ぎる。
「そんなの、言ってないよ」
「うん、今ので分かった。……そっかー、ああもう、俺だっさ……」
なぜだかダメージを受けているらしい彼に、「腕離して」と抗議した。そろそろこの距離から解放されたい。
「私、帰る」
「えっ」
話は終わった。至極当然のことを述べたつもりだったのに、津山くんは焦った様子で問うてくる。
「西本さん、帰るの?」
「帰るよ。だから離して」
「え、あ、えっと……あっ、そうだ! 白さんの代わりにさ、俺と遊んでよ」
名案だ、とでも言いたげな彼の口調に、意図せず顔をしかめる。やだ、と端的に拒否すれば、津山くんは私の腕を掴む手に力を込めた。
「お願い! いいじゃん、どうせ遊ぶ予定だったんでしょ? 俺を白さんだと思っていいから」
「それはさすがに羊に悪いからやめておくけど」
謙虚なんだか図々しいんだかよく分からない懇願に、気が抜けそうになる。慌てて気合を入れ直して、再度断りを入れることにした。
「別に私とじゃなくてもいいでしょ。暇なら他の人誘って遊びなよ」