ピーク・エンド・ラバーズ
こんな人通りのあるところで言い合いをするのも邪魔になる。
とりあえず奥の方に移動しよう、と促すと、彼は数歩進んだ私を引き留めるように前へ出てきて、それから振り返った。
「……手、繋いでいい?」
「え、」
突然、何なの、本当に。
自信なさげに首を傾げて、私の顔色を窺うように確認してくる。
意味が分からなかった。私の知っている津山岬は、手を繋ぐくらい平気で何とも思わずにできる男の子だ。
手どころか、デートもそつなくこなして、キスもそれ以上も。へらへら笑って、お互い楽しいならそれでいいじゃん、とか軽々しく言ってのける人間なはずで。
じゃあ、いま目の前で私の答えを待っているこの人は、誰?
「はぐれたくないし、西本さんに逃げられるの、結構ショックだから」
「な、に」
「繋ぎたい。だめ?」
だめ。だって、困る。遊び人の津山岬でいてくれないと、私が困る。
今更そんな、普通の男の子にならないで欲しい。断る理由が何もなくなっちゃうじゃない。
「……西本さん、お願い」
「わ、分かったから……ちょっと離れて」
「離れたら繋げないから、やだ」