ピーク・エンド・ラバーズ
やだとか言うな、可愛いから!
もうさっきから断る理由と、動揺していることへの言い訳ばかりが頭に浮かぶ。
必死に抗う私に、とどめとばかりに彼の手がちょんと触れた。
「ごめん。嫌?」
「…………も、好きにすれば」
それ以上聞くな。私に決定権を委ねるな。最終的に合意みたいな雰囲気にするな。
羞恥でどうにかなりそうだったけれど、投げやりに手を差し出す。
「ん」
「……ありがと」
目を逸らしたら負けな気がしたから、下から緩く彼を睨みつけた。
それなのに、津山くんは目を細めて、遠慮がちに微笑む。そんな笑い方は知らない。いちいちくすぐったくなる心臓が、鬱陶しかった。
津山くんの手は思ったよりもずっと熱くて、はぐれないようにと言った割には、今にも振りほどいて逃げられるような、弱い力だった。
いっそ無理やり引っ張ってくれれば文句を言えるのに、これじゃあ無下にもできない。
「そこ段差あるから、気を付けて」
駅の奥の方に特設会場があった。大きなツリーが立てられていて、夜になるとライトアップされる。
人混みの中、津山くんは少しだけ手に力を込めて、私を気遣ってくれた。こういうのは、女の子の扱いに慣れているからできるのか、もともと彼が気が利く人だからなのか、それは未だに判断がつかない。
「西本さん、首とか寒くない?」