ピーク・エンド・ラバーズ
一ヶ月前とは違って、薄っぺらさも何もない、真面目なトーン。
「じゃあ、好きな人は?」
そう言って私の瞳を射抜いた彼の頬が、赤い。真剣な顔をして、不安で揺れる目と縋るような声と。
私は馬鹿でも鈍感でもないから、変な勘違いをしていない限りは、この人が私に対して抱いている感情を、分かっているつもりだった。でも、それを認めたくないという気持ちがあるのも、正直な部分だった。
何で? 何で私なの?
津山くんならそれこそ選び放題じゃん。自分のことを確実に好いてくれている女の子を選んだ方が、百倍いいと思う。
「……いないよ」
だって、私は津山くんのこと、好きじゃない。手放しで彼にそんな気持ちを向けられるほど、私は馬鹿じゃない。
嫌いになりたいけど嫌いになれなくて、好きになりたくないけど嫌いじゃない。
こんなプライドまみれで強がりだらけの虚勢を恋と呼ぶには、あまりにも空しいし、誰に対しても失礼だと思う。
「そっか」
津山くんの相槌は、悲しい色をしていなかった。むしろ安堵したかのようなそれに、ほんの少しむかついてしまう。