ピーク・エンド・ラバーズ
私に聞くくせに、自分は言わないんだ。保身に走る彼の態度が気に食わない。
臆病なふりをしたって、今更遅いよ。私は全部知ってる。今まで散々女の子で遊んできたもんね。気を持たせて、期待させて、適当に躱してきたんだもんね。
「……あ、」
点いた、と誰ともなく声が上がって、目の前のツリーが光り出す。
ロマンチックな光景に、急に嫌気がさした。マフラーを分け合って浮かれている自分にも、隣にいる津山くんにも、全部。
「ごめん。帰る」
「え、」
「ごめん」
マフラーを解く時間も鬱陶しくて、津山くんの顔を見る余裕はなかった。
人混みを掻き分けて、迷惑がられながら、私は必死に彼から逃げたかった。
分からない。分からなくなる。
自分は常に正解を選び取って生きてきたと思っていた。友達も、部活も、進路も何もかも。間違ったことなんて一度もなかった。
津山くんを好きにはならない。私の中で、それが唯一彼に対しての正解だった。
最低、最悪、軽くてチャラくて薄っぺらい。軽蔑する。軽蔑している。
笑わせないで欲しい。そんな人から貰う気持ちなんて、一つも信用できないのだ。
『ごめん』
その日寝る前に一つだけ届いていた彼からのメッセージは、私の言葉を反芻しただけの、ただの当惑だった。