ピーク・エンド・ラバーズ
津山くんが軽く詫びて席を立った。
それを視線だけで受け流して、私は窓の外を眺める。
「もしもし? あ~、いやごめん、ちょっと友達と話しててさ……」
彼の声が徐々に遠ざかっていって、ようやくほっと胸を撫で下ろした。
狼谷くんは問題児だけれど、津山くんだって、私にとっては問題児なのだ。
人当たりが良くて、明るくてユーモラス。そこだけ切り取れば、彼がとても輝いた人に思えるだろう。
だけれど実際のところ、津山くんは女癖が悪い。もう本当に、いっそ清々しいほどだらしない。
へらへらとチャラついた笑顔で女の子を誑かし、関係を持った人数は一体いま累計で何桁いったのか。
特定の彼女をつくるわけでもなく、彼は「必殺遊び人」としてその名を馳せていた。
「やー、ごめんごめん。俺、腹減ってきたな~。ポテト頼んでいい?」
早々に電話を終え、津山くんが帰ってきた。言いつつ呼び出しボタンを押そうとするので、私はすかさず口を挟む。
「もう帰ろう。私も普通にお腹空いたし、家帰ってから食べるよ」
「まじ? おっけー、そしたら帰るか」
二人して立ち上がり、荷物を整理する。
伝票を抜き取ろうとしたところで、彼の手が素早くそれを攫っていった。
「じゃ、今日は気分いーから俺のおごりで!」