ピーク・エンド・ラバーズ


羊に手を振ってから荷物をまとめていると、何やら教室の後方が騒がしい。
どうやら津山くんが机に突っ伏したまま、起き上がらないようだった。


「おい岬、大丈夫か?」

「……うん」

「俺らもう部活行くけど、お前今日休みってことにしとくよ?」

「うん、頼んだ」


バスケ部の友人だろう。そんな会話をして、彼の「大丈夫」を信じたのか、教室を出て行く。

教室掃除の当番の人が、津山くんの様子を窺って、それから顔を見合わせる。心配していないわけではないのだろうけれど、正直今は掃除の邪魔になるから、ここではなくて別の場所に移動して欲しそうだ。

いつも津山くんにじゃれているスカート丈の短い女の子たちは、もう既に帰ったのか、ここにはいなかった。


「西本さん、机下げちゃっていい?」

「あ、ごめん。今出るね」


慌てて鞄を持って、立ち上がる。津山くんは、顔を上げない。

――ああ、もう。何でこういう時に、あんたの周りには誰もいないんだ。


「津山くん」


彼の近くまで歩いていって声を掛ければ、その背中がぴくりと揺れた。ゆっくり顔を出した津山くんが、血色の悪い唇を小さく動かす。


「……西本さ、」

「立てる? ていうか、歩ける? ここだと邪魔になるから、保健室行った方がいいよ」

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