ピーク・エンド・ラバーズ
でも、とか何とか口ごもっている津山くんの腰を引き寄せれば、彼は観念したのか、少しだけ体の力を抜いた。
自分から促したけれど、そうされたらされたで結構重い。津山くんはかなり細い方だと思っていたのに、やっぱり男子と女子では根本的に違うのだろう。
何とか保健室まで辿り着いて、先生に手伝ってもらいながら津山くんをベッドに寝かせた。
「重かったでしょう。大丈夫?」
「はい、大丈夫です。彼、ほとんど自分で歩いてたようなものなので」
それなら良かった、と先生は頷いて、小さく息を吐いた。
「あとは私の方で対応するから、もう帰って大丈夫よ。ありがとう」
「分かりました。お願いしま――」
す、と最後の一文字が空気の抜けるような音だけで終わったのは、私のせいじゃない。
何気なく津山くんの方に視線を向けた瞬間に、彼の目に捕まった。ただ純粋に訴えかけてくるその瞳からは、私への非難すら滲んでいる気がする。
――逃げるの?
まるで、そう問われているようだった。
「……あの、すみません。少しだけ彼と話してもいいですか。用事があって」
逃げないよ。別に、そういうわけじゃない。確かにあの日は、逃げてしまったけれど。
「あら。私、外した方がいい?」
「いえ……」
「あなたなら心配なさそうだから、ちょっとだけ出るわね。ゆっくり話して」