ピーク・エンド・ラバーズ


何でそんなに一生懸命、私に媚びるの。
津山くんならわざわざ下手に立ち回らなくたって、いくらでも持ち上げてくれる人はいるよ。私なんかに気力も体力も割く必要、微塵もないよ。

それなのに、どうして。どうして、私なんだろう。


「……体調悪いなら、あんまり喋らない方がいいよ」

「だって、西本さんと話すの久しぶりだから」

「別に……学校ではだめっていうだけで、電話とか、……すれば」

「電話していいの?」


まずい。違う。私が言いたかったのは――というか、望んでいたのはそういうことじゃない。


「だ……だめ。やっぱり、だめ。なし」


必死に訂正して、頭を振る。
冷静に。落ち着いて。津山くんのペースに乱されちゃいけない。私は、彼との関係にしっかりと線を引くために話をしようと思ったんだ。


「何で? 俺、長電話とかしないよ」

「そういう問題じゃないの」

「電話だったら誰にも聞かれないじゃん。……誰にも、邪魔されないじゃん」


拗ねたように付け足された最後の言葉が、僅かに甘さを含んでいて。
認めたくない、受け入れたくない。そうやって突っぱねてきたのを、少しずつ剥がすように侵食していく。


「じゃあ、一個だけ教えて。何であの日、帰っちゃったの」

< 66 / 275 >

この作品をシェア

pagetop