ピーク・エンド・ラバーズ


攻撃をまともに食らって、息が詰まった。
あざとい。あざといのに、それを素でやってくるから本当に勘弁して欲しい。計算づくなら、「ふざけないで」と一喝できるのに。

タチが悪いんだ、本当にこの人は。
前みたいにへらへら薄っぺらい言葉で誘ってくる方が、ずっとマシだった。向こうが本気じゃないのが分かっているから、私も気楽に拒否できる。

けど、今は違う。嘘じゃない。揶揄っているわけでもない。それが彼の目を見たら嫌でも分かる。
だから無下にできなくて、結局私も真面目に考えなきゃいけなくて。曖昧に誤魔化して逃げるのは、もうそろそろ限界が来ている。


「…………考えとく」

「えっ」

「なに?」

「だめって言われるかと思った……」


まだあげるなんて一言も言っていないのに、口元を押さえた彼が、嬉しさを滲ませる。
何だか心外だ。クリスマスの時も同じようなことを言われた気がするのだけれど。


「考える、だけだよ」

「うん」

「あげるか分かんないよ」

「うん。いいよ」


彼が私に向けているのと同じものを返せるわけではないし、積極的に返そうとも思っていない。期待をされても、きっと望むものはあげられない。
それなのに、この人はどうして臆面もなく私に期待できるんだろうと、それだけがずっと疑問だった。

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