ピーク・エンド・ラバーズ



「本当に好きなんです。かっこいいからとか、優しいからとか、そんなみんなが言うような理由じゃなくて……」


どことなく浮かれていた思考が、一気に沈んでいく音がした。

狼谷くんと二人で帰るという羊を見送って、玄関から歩いている最中。私が利用しているバス停の手前で、二つの影が見えた。

二月と言えば? な、バレンタイン当日。
朝から友達や美術部の先輩後輩に、チョコを渡したり渡されたり。昨年ガトーショコラを作ったらみんなから物凄く好評で、迷った挙句に今年も同じものを作った。

朝はぱんぱんだったのに、今はすっかり軽くなった紙袋を提げて、私は目の前の光景にため息をつく。


『……チョコ、欲しいなあ、なんて……』


結局、ガトーショコラは一つ余分に作ってしまった。いや、最初からそのつもりだったんだと思う、多分。
友達への分はピンクのリボンを使ったのに、この一個だけはブルーのものを使おうと意固地になっていた。

それなのに、だ。自分から強請ったくせに、津山くんは先に帰りやがった。


『ねー、聞いた? 津山くんが最近大人しくなったのって、本命できたかららしいよ』

『あー……聞いた聞いた。なーんか残念、全然そういう感じじゃないよね~』

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