ピーク・エンド・ラバーズ
律義に頭を下げて、女の子がこちらに向かってくる。そのまま私の横を通り過ぎていって、津山くんはそこでようやく私の存在に気が付いたようだった。
彼が気まずそうに目を伏せる。
私は黙ってバス停の前まで歩いて、立ち止まった。津山くんのことは見なかったふりをして、ただ真っ直ぐ前だけ向いて、バスを待っているだけの人を装う。
「……西本さん」
「なに?」
「あの、……ごめん」
「何が?」
自分の口から漏れる声が、思いのほか低くて驚いた。でもそれをやめようとも思わないし、やめる術も分からない。
ごめんって、何? 先に帰ったこと? それとも、揶揄ってごめんって?
『好きな子、いるんだ。だからごめん、君とは付き合えない』
ううん、違う。私は知ってる。津山くんが、私を好きだっていうこと。
可愛らしくとぼけられるようなスキルも、鈍感なふりをして通常運転でいられるメンタルも、私にはない。
分かってた。津山くんが本当に、本当の気持ちを私に向けてくれているって。
でも認めたらそれに向き合わなきゃいけないし、私は自分の中の曖昧な熱量に区切りをつける自信もなかった。
『……西本さん、俺のこと、嫌い?』