ピーク・エンド・ラバーズ
津山くん以外に誰がいるの、と私がため息をつけば、彼は一瞬泣きそうな顔をして、それから紙袋を大事そうに抱え込む。
「ありがとう……」
まるで泣き笑いみたいな表情だった。心底嬉しそうに、屈託なく笑うから、それを見て意図せず顔をしかめる。
津山くんの困った顔が見たい。焦った顔が見たい。でも、いまそんな風に笑われてしまうと、難しいことは全部放り投げたくなった。
津山くんに笑って欲しいと思う。愛想笑いじゃなくて、内側から溢れて耐え切れないってくらいの笑顔を、私が見つけてあげたいと思ってしまう。
拗ねたり縋られたりすると、ちゃんと笑わせてあげなきゃなと、いつも手を伸ばす自分がいる。
「西本さん、これって……本命……?」
今日も上目遣いで私の理性を崩しにかかる男の子。
どんなに弱り切った顔をされたって、そこだけは甘やかしてやるつもりはない。ピリオドは、そっちが打ってよ。
「随分ポジティブなんだね」
「えっ、だって……」
「あ、バス来た。じゃあね」
「西本さん!」
そそくさとバスに乗り込もうとした私に、津山くんが叫ぶ。
「ホワイトデー、空けといて!」
結局、三月は津山くんが熱を出しておじゃんになったのだけれど、それはまた別の話だ。