ピーク・エンド・ラバーズ
電話を代わったらしい。声変わり途中のゆらゆらと低い声が、通話口越しに問うてきた。
「うん、受かった。優希、ありがとね」
「何が」
「最近夜中にゲームしてる音、全然聞こえなかったから。我慢してくれてた?」
「……別に。たまたま」
これ以上はきっと怒られるなあ、と察知して、私も「そっか」と短く返す。こういうところがあるから、喧嘩になって腹が立っても許してしまうのだ。
今日の夜は何が食べたい? と再び電話を代わった母に聞かれて、家に帰るまでに考えておく、と答えてから通話を終えた。
顔を上げると、目先に津山くんの姿を見つけた。彼も電話をしている。
内容はもちろん分からなかったけれど、なぜか「ごめん」と照れ臭そうに繰り返していて、彼の表情は晴れ晴れとしていた。
「おめでとう」
電話を終えた背中に、確信を持ってそう投げかける。
振り返った津山くんは少しだけ固まって、それから目元を和らげた。
「ありがと……ちょっと、自分でもまだ信じらんないけど」
正解だったみたいだ。
今日最初に会った時のような弱々しい色は、もう彼の顔からは見受けられない。
会話が終わって、周りの喧騒が遠く耳に残る。春の風はやっぱり、土の匂いがした。
「……帰ろっか」