ピーク・エンド・ラバーズ
さっきより少しだけ近付いてきているのが分かる。
何だか私も意地になって、絶対に止まってやるかと思った。歩くペースを上げる。
「ほんとに、めちゃくちゃ好きだから! ごめん、もっかいちゃんと顔見て言いたいから! お願い!」
私の前を歩いていた人が、ぎょっとした顔で後ろを振り返った。信号を挟んで向こう側にいる人も、何事だと訝しんでいる。
駆けてくる足音が近い。ず、と水っぽい音が聞こえて、思わず立ち止まった。
振り返った先、顔をぐちゃぐちゃにして、息を切らして、涙なのか鼻水なのか分からないくらい頬を濡らして、津山くんが立っている。
「……泣きすぎだよ」
こんなに子供みたいに泣き腫らした彼は、初めて見た。
津山くんが「だって」と弁明する。
「だって、止まってくれないし……」
「誰のせい?」
「俺の、せい……」
すん、と鼻を鳴らして、彼は肩を落とした。ぐちゃぐちゃでぼろぼろで、人目も憚らず叫んで、公開処刑に等しい。
ちょっとだけ慈悲の芽が顔を出したけれど、いやいや、と頭を振る。
「で? 顔見て言いたいことって何?」