ピーク・エンド・ラバーズ
風が涼しい。
津山くんはじわじわと目を見開いて、耳を赤くした。でもそれからすぐに神妙な顔になって、声を低める。
「……西本さん」
「なに?」
「ちょっと俺の顔、殴ってくんない?」
「馬鹿なんだね。分かったよ」
雰囲気って知ってるかな、こいつ。
とにもかくにも、本人から許可が出たので、私は彼の左頬に平手打ちを一発入れさせてもらった。
「俺、耳鼻科行かなくてもいいってことか……」
「よく分かんないけど、落ち着いたみたいで良かった」
自身の頬を押さえてうずくまりながら、津山くんが安心したように呟くので、ひとまず正気に戻ったようだ。
本日何度目かのため息をついて、彼に手を伸ばす。
「来年からもよろしくね」
そう伝えれば、津山くんは私の手を恐る恐る取って、へらりと目を細めた。
「そっか……俺ら、同じ大学だった……」
「今日何しに来たの?」
「いや、正直こっちの方が気が気じゃなくて」
「あ、そう……」
立ち上がった彼が、そのまま私の手を握る。
離してよ、と身を引いても、やだ、とこれまた津山くんはしつこかった。
お母さん、ごめん。何食べたいか考える余裕、ありそうにもない。