ファーストキスは予約済み
あたしは言って、川西(かわにし)家の玄関ドアを閉めた。道を渡って、向かいにある東田(ひがしだ)家の玄関ドアを開けて、我が家に飛び込んだ。階段を駆け上がって自分の部屋のドアを開け、ベッドにダイブする。スプリングが勢いよく弾み、やがてそれが落ち着いていく。でも、あたしの気持ちはぜんぜん落ち着かない。
なによ、なによ。なにが『よかったじゃないか』よ。奏汰兄はあたしがフランスに行っても寂しくないんだ。バカバカバカ。奏汰兄なんか大嫌いっ!
お向かいに住んでて、あたしの五歳年上で、いつもお兄さんぶってて偉そうで。あたしがどんなわがままを言ってもすまし顔でさらりとかわして。
小一のとき、あたしがクラスの男子にランドセルにカエルを入れられそうになって泣いてたら、すっ飛んできて助けてくれた。
小五のとき、奏汰兄にあげようとがんばって手作りしたのに、失敗してしまったバレンタインのチョコレート。べそを掻きながら渡したら、『おいしいよ』って笑って食べてくれた。分離してぼろぼろになってたチョコレート、絶対おいしくなんかなかったはずなのに。
中三のとき、模試の成績が悪くて落ち込んで泣いてたら、『俺が勉強見てやるから元気出せ』って言ってくれた。奏汰兄のおかげで、今の高校に合格できた。
大嫌い。奏汰兄なんて大嫌い! あたしのこと、近所の年下の幼なじみとしか思ってないのなら、やさしくなんかしないでよ! 今まで……あんなふうにやさしくされなかったら、あたし……奏汰兄のこと、こんなに好きにならなかったのに……。
『もう勝手にひとりで行っちゃうからね。バカ!』
LINEでメッセージを送った。かまってちゃん丸出しだ。でも、奏汰兄にとってあたしは子どもだってわかってるから、かまってもらうしかないじゃない。それ以上の存在になれないってわかってるから……。
奏汰兄の返信メッセだってそれを物語ってる。
『バカはそっちだ。高校生にもなって、男の部屋でベッドに無防備に座るな。フランスに行ったら気をつけろ』
ほらね。保護者ぶっちゃって。もう知らないっ。
なによ、なによ。なにが『よかったじゃないか』よ。奏汰兄はあたしがフランスに行っても寂しくないんだ。バカバカバカ。奏汰兄なんか大嫌いっ!
お向かいに住んでて、あたしの五歳年上で、いつもお兄さんぶってて偉そうで。あたしがどんなわがままを言ってもすまし顔でさらりとかわして。
小一のとき、あたしがクラスの男子にランドセルにカエルを入れられそうになって泣いてたら、すっ飛んできて助けてくれた。
小五のとき、奏汰兄にあげようとがんばって手作りしたのに、失敗してしまったバレンタインのチョコレート。べそを掻きながら渡したら、『おいしいよ』って笑って食べてくれた。分離してぼろぼろになってたチョコレート、絶対おいしくなんかなかったはずなのに。
中三のとき、模試の成績が悪くて落ち込んで泣いてたら、『俺が勉強見てやるから元気出せ』って言ってくれた。奏汰兄のおかげで、今の高校に合格できた。
大嫌い。奏汰兄なんて大嫌い! あたしのこと、近所の年下の幼なじみとしか思ってないのなら、やさしくなんかしないでよ! 今まで……あんなふうにやさしくされなかったら、あたし……奏汰兄のこと、こんなに好きにならなかったのに……。
『もう勝手にひとりで行っちゃうからね。バカ!』
LINEでメッセージを送った。かまってちゃん丸出しだ。でも、奏汰兄にとってあたしは子どもだってわかってるから、かまってもらうしかないじゃない。それ以上の存在になれないってわかってるから……。
奏汰兄の返信メッセだってそれを物語ってる。
『バカはそっちだ。高校生にもなって、男の部屋でベッドに無防備に座るな。フランスに行ったら気をつけろ』
ほらね。保護者ぶっちゃって。もう知らないっ。