ファーストキスは予約済み

***

 その一ヵ月後、いよいよ旅立ちの日がやってきた。あたしは関西国際空港の国際線のセキュリティチェックの列に並んだ。振り返って、お母さんとお父さんに手を振る。いつもどっしり構えているお父さんと違って、心配性のお母さんは今にも泣き出しそうな顔をしている。

「大丈夫、寮には日本人の女の子もいるし、しっかり勉強してくるから!」
「気をつけてね」

 お母さんが心配顔で手を振った。あたしはうなずいて前を向く。

 クラスの友達は前日にうちに来てお別れパーティを開いてくれた。でも、今はどこにいてもLINEでつながれるし、そんなに寂しい気はしない。そうだよ、いつでも連絡取れるから。

 でも、公務員試験の勉強に集中したいから、という奏汰兄とはLINEもできないし、電話だってかけられない。留学期間の一年間、声さえ聞けないのだ。それなのに、奏汰兄はバイバイの一言も言いに来てくれなかった。

 大嫌い、大嫌い……。別に奏汰兄に見送ってもらわなくたっていいもん。一人でがんばれるもん。一人で行けるもん……。
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