ファーストキスは予約済み
 なのに、おかしいな。目の前がにじんできて、前がよく見えない。

 あたしは立ち止まって、コートの袖で目をごしごしとこすった。

 大嫌いなはずなのに、奏汰兄のことを考えたら涙が止まらない……。止まらないよ……!

 そのとき、あたしの横に誰かが立った。セキュリティチェックを急ぐ人なのかと思って、あたしは一歩左によけた。それなのに、その人は進まない。どうして、と思ったとき、聞き慣れた声が聞こえてきた。

「手荷物検査、受けないのか?」

 ハッとして顔を上げたら、柔らかく微笑む奏汰兄が横に立っていた。

「なんで……?」

 奏汰兄がそっと右手を伸ばしてあたしの頬に触れた。びっくりして涙が止まる。

「夢を叶えに行くのに、なんで泣いてんだよ」
「だって」
「愛海は泣き虫だからな。きっと俺が見送りに行かないと泣いてるだろうなと思ったんだ」
「別に……泣いてなんか」

 ないもん、と言ったとたん、ひっく、としゃくりあげてしまった。
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