お見合い結婚～イケメン社長と婚前同居、始めます～

「そんなに怒らないでよ」

電話越しに困ったような声をあげる美夏に、私は小さくため息を吐いた。


怒っているんじゃない。
混乱しすぎていて、自分でも何がどうなっているのか分からないのだ。



「私が藤丸さんに協力しようって思ったのはね、前回の同窓会の日、向かいに座った私に開口一番に藤丸さんは『赤井琴理ちゃん』って覚えてる？って聞いてきたのよ」

私は思わず、息を飲んだ。

だって、私の事を、そういう形で覚えているという男性に会ったことは記憶になかったから。


学生の時の私はいつも「近藤美夏の親友」と他校の男子に言われていたから。


「私の名前言っても、全く覚えてなかったのよ。しかも、何十年ぶりの再会だった同窓会ならまだしも、この間の取材の時も全く覚えてなかったんだから」

電話越しでも、不服そうな美夏の姿が想像できてしまった。