お見合い結婚~イケメン社長と婚前同居、始めます~
「藤丸さんは、嫌いなものとかないんですか?……って、あ、あれ?」
同棲生活が始まって初めて藤丸さんからお願いされたから、ちょっと嬉しくなって嫌いなものとか聞いちゃったりなんかしようとしたのに。
急に目の前がぼやけて、涙で頬が濡れていくのを感じるのに、そう時間はかからなかった。
「あ、あれ?こんなはずじゃあ…」
悲しいはずなんてないのに、涙は止むどころか次から次へとポロポロと溢れてくる。
私は思わず食卓から離れ、キッチンのシンクの前に移動した。
「琴理ちゃん、大丈夫?どうしたの?」
私よりも15センチほど背の高い藤丸さんは、私を覗きこむように腰を落とす。
「ちょっと、ホームシックで」
32歳にもなって、何を言ってんだろう私。
でも、それ以外にこの涙の理由に心当たりはない。
きっと目の前の藤丸さんだって、何言ってんだ、この女って位に思ってる。