その男、猛獣につき
「あぁ、そ、そうか。それならいいんだけど…」
しげちゃん先生も興梠先生の言葉に戸惑っているようだ。
私は興梠先生の言葉に、俯いてしまった。
何故か涙が出そうになるのを、下唇を噛んで堪える。
「じゃ、じゃあ。がんばれよ、有田」
先生はそう言って優しい笑顔を見せて、手を振り帰っていく。
私も無理やり張り付けたような笑顔を見せて、しげちゃん先生を見送る。
「じゃあ、戻ろうか」
先生は何も言わず、その一言だけを呟くように言うと、さっさと歩きだしてしまう。
「くっそ…」
わずかに先生の背中の方から聞こえてきた呟きが、胸に刺さる。
さっきから噛みしめている下唇がますます痛みを覚える。
それでも、噛みしめていないと涙が決壊して溢れだしそうになっていた。