その男、猛獣につき
「それから、しげちゃんには、舞花ちゃんはいい娘だねって伝えておいたから」
「えっ?」
私が驚いて振り向くと、敦也さんは今度は優しい笑顔を見せる。
「俺みたいな障害があると、好奇な目とか偏見でみられることが多いんだけど。舞花ちゃんは、最初会った時からそんな目では俺のことも車イスバスケのことも見てないじゃん」
「だって敦也さんは、敦也さんだから。」
ちょっとだけ誉められると恥ずかしくて、はにかんだ。
「それが俺にとっては、嬉しいの‼」
車内のBGMがやけに大きく聞こえる気がする。
私は恥ずかしくて、なんだかくすぐったくて、わざとらしくおどけて見せた。
「口説いてるんですか?敦也さん」
敦也さんも、私の言葉にガハハといつものように明るく笑う。
「さすがの俺も、親友の女を口説こうとは思わないよ」